苦情解決システム
1 .苦情につながる要因
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(1) 制度に対する戸惑いや疑問
- 利用制度への不安や情報不足から苦情に発展。
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(2)『お世話になっている』意識から『利用』する意識への変革。
- これにより、受け身だったご利用者意識が能動的となり、苦情等を『権利』として主張されるように変わってきます。
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(3) 業務が煩雑化、多様化かつ効率化するなかでのミスの発生。
- OA機器による業務の迅速化、膨大化等事務処理の急激的増大や契約などの煩雑化によって、処理上の人為的ミスが予想されます。
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(4) 職員のサービス業としてのご利用者対応への問題。
- これまでの『措置』の保護体質から『~してあげている』意識がご利用者の不満をあおり、苦情となる場合。
その他様々な要因から、例えば何気ない会話のやり取り一つから発生する可能性があります。
2. 苦情の傾向
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(1) ご利用者の認識不足によるもの
- ご利用者の認識不足が、実は施設側の説明不足に原因がある場合も多いと思われます。
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(2) 職員の対応マナーに関するもの
- 施設内での言動のみでなく、地域でも施設の職員に対する目はいつも光っていることを肝に銘じておかねばなりません。また、施設での研修などによりサービス業としての意識付けが大切です。
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(3) 事務処理上のミスに基づくもの
- 施設側がミスに気付き申し入れた場合はさほど問題になりませんが、まったく気付かずご利用者等からの指摘より初めてわかるケース。
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(4) 職員の不正によるもの
- このようなケースが発生すれば施設はもとより、法人としての経営、管理にまで遡って問題を明らかにし、対策を講じる必要があります。
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(5) 言い掛かりに近いもの
- ミスの大小に関係なくそれを材料に施設に言い掛かりをつけるもの。
多くの場合、何らかの背景があるので施設のみで判断・対応せず、本部との連絡を緊密にとり対応することです。(恐喝・暴力等)
- ミスの大小に関係なくそれを材料に施設に言い掛かりをつけるもの。
3. 苦情解決のもうひとつの効果
相談・苦情については、苦情受付担当者、苦情解決責任者、第三者委員により適切に、迅速に解決する必要がありますが、一連の処理過程を徹底することで、リスクマネージメントの効果を期待することが出来ます。
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(1) 不祥事件等の火種の早期発見
- ご利用者の指摘に迅速に対応し、即調査等により事実を究明し結果を回答することにより、不正の芽を早期に摘むことが出来る。
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(2) 施設運営上の問題点の発見
- 施設は当然その環境および問題点をよく把握し、施設運営の方針・目的を策定している筈ですが、場合によると、認識にギャップがあることも考えられます。
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(3) 適正な人員配置への手がかり
- 施設の職員は、それぞれ適正に配置されているところですが、特定の職員に苦情が集中し、調べてみたところまったく現在の仕事に向いていないといった場合もあります。
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(4) ご利用者への応対の問題点の発見
- ミスをしたら必ずご利用者の苦情になるわけではありません。問題はその際の応対です。対応に問題があれば苦情となって出現してきます。
どこに問題があったかを知る事例となります。
- ミスをしたら必ずご利用者の苦情になるわけではありません。問題はその際の応対です。対応に問題があれば苦情となって出現してきます。
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(5) 運営システム上の問題点の発見
- 施設固有のミスというより、法人としての運営システムの問題点が明らかになるケースもあるかもしれません。その場合、どこにシステム上の問題があり、それを是正する仕組みをどのように構築していくかを法人レベルで考えていく必要があります。
4. 苦情処理様式の整備・運用について
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(1) 苦情等、ご利用者の申立て事項の処理様式を整備する際の留意点
- 1)苦情等ご利用者からの申立て事項の、『受付』から『報告』まで記録を作成し、ご利用者からの申立て事項は全て記録する。
- 2)記録は、情報の一元処理、記入漏れ、改ざん、紛失、誤廃棄等を防ぐため、苦情受付担当者が管理する。
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(2) 苦情等、ご利用者の申立て事項の記録の重要性(記録の整備は、サービス内容の向上を図るためにも必要です。)
- 1)ご利用者からの苦情等申立て事項は、事故や事件を暗に示唆している場合があります。未然に防ぐ意味からも重要な資料となります。
- 2)苦情等ご利用者からの申立て事項は、いわば、施設内部でのサーピスに対するモニタリング機能を有しているということができます。
- 3)苦情等はご利用者の率直な意見としてサービス提供上の有益な情報となり、業務姿勢に対する批判等を通じて職業意識の改善にもつながっていきます。
苦情解決関連様式
- 苦情申立書(ご利用者からの申立て)
- 苦情申立受付記録簿(申立ての把握)
- 苦情申立記録書(申立ての詳細及び処理状況)
- 苦情解決結果報告書(苦情申立人宛・第三者委員宛報告)
5. 苦情対応の実際と留意点
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(1) 苦情の受付
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受付の心構え
最初に苦情を受け付けた窓口(受付担当者)で、時間をかけて親切で丁寧な対応を心掛けることが重要です。受付担当者の段階では、ご利用者の苦情の不満要因を取り除くと共に、生きた情報をサービスの改善へ結び付けていくという事が必要となります。なお、ご利用者からの過度の要求や、暴力的な性質を持った要求に対しては、ご利用者の立場を理解しつつ、毅然とした態度で対応することも必要です。
介護関係では、制度に対しての情報提供不足や誤解から、問い合わせや苦情が多く寄せられる可能性があります。窓口では介護保険制度について、要介護認定の仕組み、保険料や自己負担額、事業者情報やサービス内容などについて説明を求められでも十分に応答できるようにすることが必要です。- ○ ご利用者の言い分を最後まで聞く。
- 申立ての真意を理解するためにも、またご利用者の心を受け入れるためにも『聞く』姿勢が重要です。担当者の一方的な決めつけや説得は、ご利用者の心証を損ないかねません。
- ○ 分かりやすい言葉で対応する。
- 専門用語や解説が必要な言葉は、誤解を生じやすくするだけでなく、不親切な感情をいだかせるもととなります。
- ○ 丁寧な言葉づかい、態度を心掛ける。
- 表面上は丁寧であっても、心のなかでご利用者に無礼な感情をいだいていると、必ず伝わります。特に神経質なご利用者もいらっしゃることを認識して、相手の立場に立つことが大切です。
- ○ 訪問対応を原則として、迅速に対応する。
- 電話など、顔が見えない中での対応の場合は、お互いに相手の思いが掴みきれずに感情的になりやすくなります。受付側の姿勢も含め、訪問対応でご利用者の真意を理解することが必要です。
- ○ 約束を明確にし、必ず守る。
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「何時」を明確に伝えて、必ず守ることが解決を早めます。~例~
「私では分かりかねます。」→「お調べして○○日(○○時)にご返事差し上げます。」- ※ 解決を急いで妥協しない。(2次苦情の出る可能性がある。)
- ※ 出来ること、出来ないことをハッキリと伝える。
(出来ない理由を伝えることで一定の理解をえることが出来る。) - ※ 言い訳、言い逃れは厳禁。現状を素直に謝り、今後の対策を説明する
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(2) 苦情内容の把握
- ○ 苦情申立者の名前、住所等忘れずに聞き取っておきます。
- ○ 苦情の真意を聞き取りにより把握します。 (本当に困っている事)
- ○ 申立者がどの様にしてほしいか(希望) を把握します。
- ○ 聞き取った内容の確認を忘れずに行います。
- ○ 約束を明確にし、必ず守る。
ご利用者の言い分がすべて正しいとは限りません。また、うまく言葉にできずにその真意が表現できていない場合もあります。内容を慎重に検討して、苦情の本質を掴むことが大切です。対応次第では些細な事が、大きな問題に膨れることがあります。言葉上だけでの判断は禁物です。 -
(3) 苦情の対応
出来る限り苦情を受けた窓口(受付施設) で解決するように努めますが、解決が困難な場合は、第三者委員との調整を図ったり、他の適切な機関を紹介し、対応します。
(運営適正化委員会・市町村・国民健康保険団体連合会への紹介)
その場で解決できず後日回答となった内容については、継続対応となるような工夫が必要です。( 回答しないまま放置されていることのないように、継続検討の適切な処理) 申立者に対しても同様に経過説明が大切です。対応上の留意
- 1)記録簿を克明につけ、些細なことでも全力を尽くす。
- 担当者レベル、責任者レベルを問わず、苦情の申し立てだと察知したら、ご利用者の主張を克明に記録しておくこと。担当者レベルへの苦情だからと安易に考えないこと。大きな苦情へと変化することもあります。職員個々にもその意識付けは必要です。
(応対=担当者は私意識) - 2)苦情を前向きに受け止める
- 苦情は誰でも嫌なものです。だからといって担当者や責任者がその責務を怠り、忙しいからといって逃げていては火種が大きくなるばかりです。施設の責任者は担当者をはじめ、職員全体に苦情等に対して前向きに対応する雰囲気と体制を整備する必要があります。
- 3)フォローが重要
- 何回かのやり取りを経て苦情が解決した後も、間隔をおいて利用者とコミニュケーションをはかり、フォローすることが大切です。
必要以上に話を大きくしないうえでも、また、地域社会への流言飛語を抑制するうえでも大事なことです。
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(4) 苦情の報告
苦情解決や改善を重ねることにより、サービスの質が高まり、運営の適正化が図れます。より実効化するために、記録と報告を整理して事例の活用に備えることが必要となります。
- ・苦情受付担当者は、受付から解決・改善までの経過と結果について記録する。
- ・苦情解決責任者は、苦情解決結果について第三者委員に報告し、必要な助言を受ける。
- ・苦情解決責任者は、申立者に改善等約束した事項について、申立者及び第三者委員に報告する。